ゲームデザインのモデリング:「FF13」のオプティマシステム その4
シリーズタイトルを少し変更。単にゲームデザインのモデリングとすることにする。
さて、ゲームデザインをモデリングしてみようシリーズの第6回目となる。過去のモデリングは以下。
- 1回目:「真・女神転生 STRANGE JOURNEY」の新要素
- 2回目:「真・女神転生 STRANGE JOURNEY」のデビルCO-OP
- 3回目:「FF13」のオプティマシステム
- 4回目:「FF13」のオプティマシステムその2
- 5回目:「FF13」のオプティマシステムその3
なお、これまでのエントリで分かったことは「ゲームデザインのモデリング」というドキュメントにまとめていく予定。
さて、今回のモデリング対象は、前回までと同じく「FF13」のオプティマシステム。ただ前回までのように、このシステムを構成する要素はもう追加せず、少し違う観点から完成したモデルを使って考えたい。
モデリングの概要
以下の説明は、既に知っている方は読み飛ばしてもらって大丈夫。
具体的なモデリングに入る前に、どういうモデリングなのかが少し分かってきたのでまとめてみる。
- 何を表現するためのモデルか?:このモデルは、ゲームシステム上の仕様を細かな決定要素からなる構造に分解して表現する。
- 決定要素とは、たとえば「アビリティがある」「カウンター(というアビリティ)がある」「カウンターは5%の確率で発生する」といったもの。
- 何のためのモデルか?:このモデルは、個々の決定要素をプレイヤーの不満の観点から検討・評価・再決定するために利用できる。
- たとえばプレイヤーは「カウンターの発生率が低すぎて役に立たない」というような不満を持つかもしれない。これは「カウンターは5%の確率で発生する」という決定に対する不満である。したがって、この決定を変更する必要があるかもしれない。
モデリング
前回までで作成したオプティマシステムのモデルは以下の図。
この図は、小さくて少し分かりにくいかもしれないので、今回の話に関連する部分だけを切り取った図はこれ。左下の部分を削除。
ある意味、こうやって部分的に議論できるだろうというのは、ゲームデザインとモノの特徴を示しているかもしれない。
- ゲームデザインは、ある視点の決め方次第で、部分的なデザインに分解できる。
- (1)より、したがって、部分単位でデザインを理解できる
- (1)より、したがって、部分単位でデザインができる
つまり、ゲームデザインと言うのは、モジュール化できる対象であるかもしれない。モジュール化についての議論は、このエントリの対象ではないけれど、今後考えていく上での参考図書としてはたとえば『デザインルール』がある。
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さて、本題に入りたい。オプティマシステムのモデリングは、先週のファミ通(9/24号)を参考に行ってきたわけだけど、そのファミ通記事の中で、バトルCo.ディレクターの阿部氏は、次のように言っている(強調は僕による)。
─ロールを変えると使えるアビリティも変わるそうですが、キャラクターごとに覚えるアビリティは違うのでしょうか?
阿部 ロールにもレベルがあり、レベルが上がる過程でアビリティを覚えていきますが、キャラクターによって覚えられるアビリティを覚えられないアビリティはあります。育てた結果、すべてのキャラクターが同じになるということはありません。
以下では、この「育てた結果、すべてのキャラクターが同じになるということはありません」という発言をもとに考えていきたい。
なお、この発言は、正確には「取得アビリティという観点で、育てた結果すべてのキャラクターが同じになるということはない」ということだとしたい。詳細な仕様は分からないが、パラメータ等でキャラクターの個性があるかもしれないからだ。以下では長いので省略して「すべてのキャラクターが同じにならない」と表すことにする。
モデルの観点からいえば、この発言は「キャラクターごとに覚えられるアビリティと覚えられないアビリティがある」とう決定を行った結果として推測できる事実を表すと解釈できる。したがって、その関係としてモデルに追加してみよう(ついでに図では右側も関係ない部分だと判断したので省略している)。
この図では、「キャラクターごとに覚えられるアビリティと覚えられないアビリティがある」決定から「すべてのキャラクターが同じにならない」というモノが得られるとして表している。
さて、もし「キャラクターごとに覚えられるアビリティと覚えられないアビリティがある」という決定が行われていないデザインだとしたらどう表せるか?
「キャラクターごとに覚えられるアビリティと覚えられないアビリティがある」決定をなくすことで、結果として、この決定に依存する決定である「ライトニングはアビリティXXXを覚える」と「ヴァニラはアビリティXXXを覚えない」という決定がなくなったデザインになる。
また、この図では「アビリティがある」という決定からは「すべてのキャラクターが同じになる」というモノが得られるとして表現している。少し違和感があるかもしれない。違和感は「全てのキャラクターが全てのアビリティを覚えられる」という決定が暗黙であるからかもしれない。図に追加してみよう。
この図では「アビリティがある」という決定から「全てのキャラクターが全てのアビリティを覚えられる」という決定を行ったとした。また、「全てのキャラクターが全てのアビリティを覚えられる」という決定から「すべてのキャラクターが同じになる」というモノが得られるとして表している。
ここまででの疑問としては「全てのキャラクターが全てのアビリティを覚えられる」いう決定と「すべてのキャラクターが同じになる」というモノの違いって何だろう? というのがある気がする。「すべてのキャラクターが同じになる」というのは、省略せずに書くと「取得アビリティという観点で、育てた結果すべてのキャラクターが同じになる」ということだ。少し比べてみよう。
違いが曖昧に感じられるように少し考えてみると、たとえば「取得アビリティという観点で、育てた結果すべてのキャラクターが同じになること」というようにこれ自体も決定事項だとして考えてみたらどうだろう?
まだ少しよくわからない。もう一方の例で考えてみよう。
これでもダメかもしれない。新しい視点を導入してみよう。そもそも「キャラクターごとに覚えられるアビリティと覚えられないアビリティがある」という決定が行われたのはなぜか? なぜもう一つの選択肢である「全てのキャラクターが全てのアビリティを覚えられる」ではダメなのか?
理由は、一部のプレイヤー(ユーザ)がそれを望むためであると考えられる。「全てのキャラクターが全てのアビリティを覚えられる」という決定に対しては、プレイヤーの観点からすれば、「キャラクターの個性がない」という不満になる。もちろん、「キャラクターごとに覚えられるアビリティと覚えられないアビリティがある」という決定に関しても「最強のキャラを作れない」というような不満が発生する可能性がある。
デザイナーが前者の不満である「キャラクターの個性がない」に対応しようとするなら、キャラクターの個性がでるような決定をしなければならないことになる。つまり「取得アビリティという観点で、育てた結果すべてのキャラクターが同じにならない」というような要求を満たすような決定を行う必要がある。FF13の場合はこの要求に対する解は「キャラクターごとに覚えられるアビリティと覚えられないアビリティがある」であった。
一方で後者の不満である「最強のキャラを作れない」に対応するなら、そのようなキャラを作れるような決定をしなければならない。つまり「取得アビリティという観点で、育てた結果すべてのキャラクターが同じにならない」という要求を満たす決定を行う必要がある。この要求に対する解は「全てのキャラクターが全てのアビリティを覚えられる」であると言える。
図の意味は
- 左は、プレイヤーの要求・要望を表す
- 真中は、決めたことから推測できる事を表す
- デザイナーが決めたことを表す
実際は、左は、単なる遊ぶだけのプレイヤー(ユーザ)の要求とは限らないかもしれない。デザイナーがプレイヤーの立場から要求を決定する場合もあると考えられる。