ゲームプレイモデル: 消費と蓄積

このエントリでは、ゲームとプレイヤーの間の相互作用のモデル、つまり、ゲームプレイのモデルについて議論します。また、ゲームデザインのプロセスにおける課題を考察します。


議論の動機は、以下の論文でのある図をもとにしています。

MDA: A Formal Approach to Game Design and Game Research [PDF]

この論文では、「ゲームデザイナー」、「ゲーム」、「ゲームプレイヤー」の間の関係を、次の図で示しています。

ゲームデザイナー、あるいはチームは、ゲームを作ります。ゲームは、ゲームプレイヤーにより消費されます。

ここでの疑問は、消費とは何か? ということでした。消費とは、何かがなくなることです。もしくは、このエントリでは、「始まりの状態」から「終わりの状態」向けて状態を変化させていくことであるとします。

以下の図は、例として、小説とゲームの場を示しています。

もちろん、実際は、もっと複雑です。

  • (1) 「始まりの状態」や「終わりの状態」は、消費者(ユーザ)が任意に決められる。例:隠しボスと戦うかどうか。
  • (2) ある状態から次の状態への変化は、一つ以上考えられる。例:マルチエンディングにおいて、あるエンディングのルートを選択する。

とはいえ、ここで着目したいのは、消費、つまり、状態変化をしているのは、ゲームの側であって、プレイヤーの側は関係ない ということです。しかし、現実には、プレイヤーは、状態が変化しない静的な存在ではなく、ゲームとのやり取りを通じて、自身の状態を変化させます。

このことからは、「ゲーム」と「プレイヤー」の関係を消費として見るのは、一つの視点であることが分かります。別の言い方をするなら、この関係は、ゲームプレイのモデルの一つであると考えられます。

ゲームプレイのモデル

下記の図は、ゲームプレイの一般モデルを示しています。このモデルでは、ゲームプレイを、「ゲーム」と「プレイヤー」の間の相互作用であるとしています。相互作用により、お互いの状態が変化します。

前述の消費の関係は、この一般モデルを特化したものであると見なせます。

ここでは、一般モデルを特化したもう一つのモデルとして、ゲームプレイの蓄積モデルを導入します。このモデルは、プレイヤーの状態の変化に着目したモデルです。

ここで、プレイヤーが蓄積するのは、プレイの体験です。プレイ体験は、以下の要素から成るとします。

  • ゲームの状態の記憶
  • 一連のゲーム状態に対する評価(どんな点で満足したかしなかったか)

これら要素を選んだ理由は、次の節で議論するように、ゲームデザインのプロセスに影響を与える要素であるためです。

最後に、プレイヤーの状態変化を以下のように定義します。

  • 新たなプレイ体験の追加
  • 既存のプレイ体験の修正
  • 既存のプレイ体験の削除

ゲームプレイモデルとゲームデザインのプロセス

蓄積モデルは、以下の事実を強調します。

  • プレイヤーによるゲームの評価は、過去のゲーム体験に依存して行われる。つまり、どのようなゲームのどのような体験が蓄積されているのかにより、プレイヤーの評価は変わる。

このことは、ゲームデザインのプロセスに対する一つの要件を設定します。

  • ゲームデザインのプロセスにおいては、プレイヤーを過去のゲーム体験を持つ存在として扱わなければならない。

さらに課題が特定できます。

  • あるゲームのどのゲーム部分に対して、各プレイヤーはどのようなゲームのどの部分をベンチマークとして用いて比較・評価するか?
    • あるジャンル、たとえば、RPGのあるゲームに対しては、そのゲームの全てのゲーム要素と、プレイヤーは今までプレイしたRPG全ての全ての要素 に対して比較・評価を行うのか?
    • あるシリーズのゲームタイトルは、その シリーズ内だけ で比較・評価されるのか? それとも、シリーズ外 でも比較・評価されるのか?