ゲームデザインを勝手に改良してみる:『世界樹の迷宮2』のマッピング機能

ゲームデザインモデリングしてみようシリーズ」とはちょっと違ったシリーズをやってみる。ちなみに、このシリーズは別ドキュメントでまとめていくつもりなので、それようのページを作ってみた


で、どんなシリーズを考えているかというと、既存のゲームのデザインを仮想的(?)に改良してみようーというもの。なので、実際に改良できたかどうかは分からない。でも、次のことをもとに試してみたい。

  1. そのゲームに対するユーザからの不満をもとに改良の方向を決める。
  2. ゲームデザインの理論をもとに改良していく。

一つ目については、ndsmk2さんみたいなゲームレビューサイトに投稿された不満を使いたい。たとえば「お金が貯まりにくい」みたいな不満がある。

二つ目については、僕の書いてるゲームデザインの理論のドキュメントを使う。理論といっても、別に難しい数式を使うわけでも、書いてることが難しいわけでもないので気軽に考えてほしい。僕の言う理論は、現実で起こっていることを観察して、それを説明するようなモノのこと。そういうモノには、すごく当然に思えるようなものもある。たとえば「プレイヤーの好みは人によって異なる」みたいなものだ。

理論がいいのは、その理論が適切なら、起こりうることを予測してくれるということがある。たとえば、これから作られるゲームの恐らく全てで「プレイヤーの好みは人によって異なる」ということが観察できると予測できる。

予測してくれるということは、そのことに合わせた行動ができるということを意味する。「プレイヤーの好みは人によって異なる」なら、いかにして好みの多様性に対処できるのか、ということを考えることができる。たとえばあるプレイヤーの集団にとってはあるゲームは「難易度が高い」かもしれないし他のプレイヤーの集団にとっては「難易度が低い」かもしれない。では、ゲームデザイナーにとって一般的にできることはなにか。常にうまくいくとは保障できないけれど、一つは、「プレイヤーが難易度を選択できるような機能をシステムに組み込む」ことだ。


ということから、このシリーズの目的は、次のことがあると考えている。

  • ゲームデザイナーの方に対しては、理論をもとにゲームデザインを改良していくという一つのアプローチを示す。
  • 理論を作っている僕にとっては、理論の妥当性を検証する。

改良対象のゲーム

今回は、アトラスのNDSRPGの一つ『世界樹の迷宮2』を対象としたい。参考になるかどうかは分からないけど、動画。

世界樹の迷宮II 諸王の聖杯(特典無し)

世界樹の迷宮II 諸王の聖杯(特典無し)

世界樹の迷宮2』は、Wizardryみたいな3Dダンジョン探索のRPG。『世界樹の迷宮』シリーズの特徴としては、タッチペンを使って、ダンジョンのを自分でマッピングできるという点がある。今時、オートでマッピングできるのに、あえて自分でやるというのが特徴。僕はまあ、それなりに楽しめた。

ファミ通の記事が参考になるかも。


では、プレイヤーは、この自分でマッピングの機能をどう評価したのか。レビューサイトのndsmk2では、『世界樹の迷宮2』に対するレビューは、現時点では、74件ある。不満点にどのようなのがあるか僕が調査した簡単なまとめはこのページを参照。

今回は、マッピングに関して「途中で飽きる/面倒になる」という不満が3件あったことに着目したい。そのままレビューをコピペすると問題がありそうなので僕なりに解釈して書くとこんな感じ。

  • 序盤場良かったけど、中盤からは飽きる。
  • 最初は面白かったけど、だんだん面倒になる。
  • 前作でもマッピングを十分やったので、早い段階で飽きてしまった。

これらをもうちょっと一般的に表現するなら「ゲームプレイ中にプレイヤーの好みが変化した」というように考えられる。最初は面白かったマッピングが、ゲームの途中では、対して面白くないものになってしまったということだ。ゲームデザインの理論の「ゲームプレイ時におけるプレイヤーの好みの変化」という節では、僕は次のように書いた。

あるゲームに対するあるゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する

これは、PS2RPGである『ペルソナ4』に次のような不満が挙げられていたことをもとに考察を行った。

中間くらいで戦闘ナビがいらないと思うようになった。分かってることを何度も言ってくるので、音楽を聴いていたほうがいい気がした。

このように「手動マッピング」も「戦闘ナビ」は、プレイ中にいらいと判断されてしまった機能であると考えられる。以上から「あるゲームに対するあるゲームプレイヤーの好みは、そのゲームのプレイを通じて、変化する」ということを示す事例が新たに得られたことになる。僕の今回の「理論の妥当性を検証する」という目的は達せられた。


さて、不満をなくすためにゲームデザイナーがとれる(とれた)選択肢としては次が考えられる。

  1. 機能をなくす。マッピングの場合は本当になくしてしまうと不満が出るので、たとえば、自動マッピングにする。
  2. 機能を改良する。たとえば、飽きないように工夫する。
  3. 機能の有無をプレイヤーのプレイ経験に応じて選択できるようにする。たとえば、手動マッピングと自動マッピングに切り換えられるようにする。

1つ目の選択は、『世界樹の迷宮2』の売りを削ってしまう決断であるため、難しいかもしれない。
2つ目の選択は、どっちにしろ飽きてしまうかもしれないし、そもそも、自分でマッピングという機能自体を初めから不要だと思っている人もいる。
ここでは、3つの選択をとりたい。そして、(仮想的に)改良してみたい。

改良前の『世界樹の迷宮2』のデザイン(の一部)と不満は次のように大雑把に表せる。

ここでは、デザインとは、デザイナーが決めたことの集合であると考えている。「マップが表示されること」という決定があり「タッチペンを使ってプレイヤーがマッピングできる」という決定がされたと考えている。プレイヤーが不満をもったのは、後者の決定に対してである。

改良後のデザインも大雑把ではあるけれど、次のようになる。

このデザインでは「プレイヤーがマッピング方法を選択できる」という決定を行うことで、プレイヤーが手動マッピングと自動マッピングを選択できるというデザインにしている。これにより、予想はあるけれど、プレイヤーが手動マッピングを面倒だと感じたなら、自動マッピングに切り換えてもらうことで、この種の不満は発生しなくなると考えられる。

もちろん、このデザインの改良は、ゲームの作り手からみれば、現実的にはもっと大変であることは忘れてはいけない。オプション画面には、このマッピングに関する項目を追加しなければいけないし、自動マッピング自体の機能も実装しないといけない。

まとめ

このエントリでは、ゲームデザインの理論的なものに従って、ゲームを改良するやり方みたいなのをやんわりと示してみた。まとめると次のようになる。

  1. プレイヤーの好みというのは変化するものであり、変化に対応できていなければプレイヤーの不満を生み出す
  2. したがって、ある機能があるプレイヤーにとって常に必要かどうかを考える必要がある
  3. 常に必要でないかもしれないなら、プレイヤー自身が機能の有無を選択できるようなデザインにする


なお、このエントリでのようにデザインを表現する方法について詳しく知りたい方は「ゲームデザインのモデリング」のドキュメントを参照して欲しい。また、このブログでも何度かモデリングを試している。