ゲームデザインパターンについて考えてみる その4:ゲームデザインパターンの記述形式
ゲームデザインパターンの第4回目。
これまでのエントリでは、ゲームデザインパターンの記述形式については、特に気にすることなく議論してきた。
今回のエントリでは、ゲームデザインパターンの記述形式について考えてみたい。特に、僕の書いたパターンを、mnagakuさんが、他の分野でのパターン形式でまとめてくれたので、それについて思ったことをもとに考えてみたい。まとめてくれた記事は以下。
基本形式によるパターンの記述
使用されたパターン形式は、「名前」「コンテキスト」「フォース」「解決策」という最低限必要な項目でパターンを記述するもの*1。mnagakuさんによれば、各項目には次のことを記述する。
「名前」
ゲームデザインパターンについて
共通の語彙となるもの
「コンテキスト」
問題:解決すべき課題
状況:パターン適用前の周囲の環境
「フォース」
解決に至る際に考慮した事柄
「解決策」
フォース間のバランスを考慮した解決策・手順
この形式をもとに、僕の「弱点属性パターン」と「耐性属性パターン」を、mnagakuさんが記述したのが以下になる。
名前「弱点・耐性属性パターン」
弱点・耐性属性パターン
コンテキスト
状況:戦闘システムが単調でプレイヤを「力攻め」に誘導してしまう
要求:プレイヤを「試行錯誤」に誘導し、戦闘に関するノウハウ学習を楽しませたい
フォース
戦闘システムの複雑さ
プレイヤの理解の容易さ
プレイヤの楽しさ
実現の容易さ
※戦闘システムを複雑にしようとする力と、簡単にしようとする力の間でトレードオフを見ることになる
解決策
攻撃・防御に、複数の属性を持たせ、属性間の優位性を定義する
攻撃が優位属性となる場合、防御力がプレイヤに分かるぐらい下がる(弱点)
防御が優位属性となる場合、攻撃がほぼ無効化される(耐性)
付記
プレイヤは属性を意識した戦術に導かれ、属性間の優位性や、自身の武器の属性、敵の属性について考えるようになる。適度に複雑な戦闘システムに対し、学習する動機付けがなされ、学習の結果で得られる勝利により、達成感が得られる。
この記述に対する僕のTwitterでの反応はこう。
参考になりました。ただ、そのコンテキストとフォースをだけを見せて、その解決策に至るのかどうか気になりました。ただし、それは、記述の詳細度に依存するかもしれません。
http://twitter.com/asatohan/status/5049793116
もう少し補足すると、「フォース」の部分がかなり一般的であることに注意したい。
- 戦闘システムの複雑さ
- プレイヤの理解の容易さ
- プレイヤの楽しさ
- 実現の容易さ
これらは、「コンテキスト」にほとんど依存しない「フォース」に思える。つまり、この 解決策を導く根拠としては弱い。たとえば、『真・女神転生3』や『アバタール・チューナー』のプレスターンでも解決策として導いてしまうのではないか(たとえば、「ターン増減パターン」として)?
プレスターンは、弱点や耐性のシステムを基盤として作られているシステムであり、そういう意味で粒度が大きな解決策(システム)である。しかし、この粒度でも、この コンテキストでのこの フォースにおいての解決策となってしまうと考えられる(繰り返し起こる解決策かどうかは考慮しないとする)。
同様に、「コンテキスト」も一般的であると思われる。戦闘システムとは、ドラクエなどの通常のRPGを想定しているのか? シミュレーションRPGではどうか? ダンジョンRPGではどうか? アクションでは?
つまり、コンテキストとフォースの一般性の高さ(あるいは、抽象度)は、コンテキストとフォースを共有、あるいは部分的に共有するような多数のパターンの存在を許してしまう。
- (1) 粒度が同じ解決策を導く多数のパターン
- (2) 粒度が異なる解決策を導く多数のパターン
これらは以下の疑問を生む。
- どの解決策が適切なのか? 単にどれかのパターンを選択すればいいのか? あるパターンは他のパターンと比べてどんな点が優れていて、どんな欠点があるのか?
結局のところ、
- コンテキストとフォースの項目は何か意味があるのか?
ということになる。
これらの疑問の存在こそが、僕がこの形式で書けなかった理由である(ここまで詳しくは考えていなかったけれど)。ただし、書けなかったのは、僕自身が実際にこれらの弱点属性や耐性属性を備えたシステムをデザインしたことがないことにも起因する。デザインをそのまま模倣、あるいは、流用したゲームを作ったことはあっても、具体的なコンテキストやフォースを考え直したことはない。
さて、先ほどの僕のTwitterの疑問へのmnagakuさんの返事はこう。
ゲームデザインにおけるトレーサビリティは難しいですね。文脈とフォースをもっと詳細にして制約かけたら、当てはまる解決策は減るので、もっと良くなるかも。 @asatohan 解決策に至るのか
http://twitter.com/mnagaku/status/5050468762
これは、先ほどの形式でゲームデザインのパターンを記述するとするなら、チャレンジになる点だと思う。
でも、ゲームではそもそも制約が緩くて、要求の抽象度が上がる傾向が高いので、文脈に対する解決策が多数出てくると思います。そこが創造的な部分。 @asatohan 解決策に至るのか
http://twitter.com/mnagaku/status/5050579355
パターンでの話としては、解決策が創造的かどうかは重要でないと思う。パターンの基本的な定義からして、解決策としてのパターンは、既に知られているもの。
パターンでの話でない、一般的なゲームデザインでの話なら「文脈に対する解決策が多数出てくる」というのはそうだと思うし、創造的な部分もあると思う。
ゲームデザインのパターンランゲージに向けて
海外では、ゲームデザインのパターン収集やランゲージ化は既に行われてる気もするけれど*2、それらを参考にしつつも日本からもチャレンジしたい。
根本的な問題は、分野に限らずパターンを記述するのは難しいということ。これは、パターン執筆者を限定してしまうということにつながる。できれば、ゲームデザインの経験のある、あるいは無くてもゲームのシステムについて詳しい多くの人が、執筆に参加してもらいたい。
幸いなのは
- はじめから完璧なパターンを書けなくても気にしなくていいこと。
- 全部一人で執筆する必要はないということ。たとえば、このエントリで示したように、僕の書いたパターンを、mnagakuさんが特定の形式で書きなおしてくれた。
がある。
ということで、この節では、段階的な執筆について少し考えたい。
ゲームデザインパターンについて、日本で精力的に活動している人が現状でどれだけいるかは把握できていなけれど、たとえば、y_miyakeさんがいくつかパターンを書いてる。たとえば「過去の自分と協力プレイ」パターン。
このy_miyakeさんの書き方は、特に形式を気にするわけでなくラフな書き方で、
- パターン名
- パターンの大雑把な説明
- いくつかのゲーム事例
で構成されている感じのもの。これは、ゲームに詳しい人なら、書けると思う。難しいかもしれないのは、パターン名で抽象化が必要になるぐらいかな?
次は、僕の書き方で、特に形式はないけれど、デザインの構造を明確に図示する点に特徴がある。
- パターン名
- パターンの大雑把な説明
- 抽象化されたデザインの構造(解決策)
- 事例となるゲームのデザインの構造
図を描くのが面倒なので、そこは欠点。ただ、今後パターン間の関係や組み合わせ、合成を考えるなら、何らの形式で構造を明確にする必要があると思ってやってる。
最後は、今回紹介したmnagakuさんが書かれたようなパターンとしての形式による記述。コンテキストやフォースを項目として明確化するため、今回議論したように、いくつか難しい点が出てくる。
ということで、指針としては、まずはy_miyakeさんの書き方でパターンを大雑把に書いてみるのがいいんじゃないかと思う。このゲームのこのシステムは、あのゲームのあのシステムに似ている、ということから出発して、それっぽいパターン名を付ける。
*1:なお、Meszarosらの A Pattern Language for Pattern Writing では、「パターン名」「コンテキスト」「問題」「フォース」「解決策」
*2:たとえば『Patterns In Game Design』