プレイシナリオによるゲーム制作について考えてみる その2:プレイシナリオのモデル

以前のエントリで、プレイシナリオというコンセプトを用いて、ゲームを制作する手法について考えた。

このエントリでは、プレイシナリオというコンセプトをもう少し明確にしたい。

なお、これらエントリのまとめは、こちらのドキュメントに随時反映していく予定である。

プレイシナリオとは

これまでは、プレイシナリオというのを「ゲームプレイにおいて、プレイヤーが設定するあるゴールを達成するための特定のアクション(動作)の流れ」であると定義してきた。
あるゴールは、いくつかのサブゴールで構成されていてもかまわず、同様にあるアクションは、いくつかのサブアクションで構成されていてもよい。

たとえば、RPGでは、次のようなプレイシナリオがあると考えられる。

  • レベル上げ: あるボスを倒すため(ゴール)に、レベルを一つ上げる(サブゴール)。ダンジョンを歩き(アクション)、敵を倒す(アクション)。
  • お金をためる: ある武器を買うため(ゴール)に、500Gの金稼ぎを行う(サブゴール)。手持ちの不要となったアイテムを売る(アクション)。

プレイシナリオとは、別の表現をするなら、ゲームプレイの一部を切り取ったものであると言える。

プレイヤーは、プレイ時にゲームに対するさまざまな不満を持つ。ある不満は、あるプレイシナリオにおいて生じる。
たとえば、プレイシナリオ例の「お金をためる」では、プレイヤーは「アイテムをまとめ売りできない」ということに対して不満を持つかもしれない。

どのようなゲームプレイが可能かは、プレイヤーがプレイするゲームにより制約される。

プレイシナリオを用いてゲームを制作するとは、

  • (1) プレイシナリオとそのシナリオで生じる可能性のある不満をペアとして明示的に記述し、
  • (2) その記述をゲームデザインの評価・改善のために利用する

ことを意味する。

プレイシナリオ記述の必要性は、以下の二つの前提に基づく。

  • (前提1) ゲームは複雑な人工物となってきており、今後もより複雑になる可能性がある。
  • (前提2) どのようなプレイシナリオが生成されるかは、個々のプレイヤーに依存する。

このため、ゲームデザイナーは以下の問題を抱えることになる。

  • プレイヤーが不満を持つかもしれない全てのプレイシナリオを想像することは困難である。

結果として、ゲームには潜在的な欠点が残ってしまう可能性がある。

また、プレイシナリオ記述の有用性は、以下の前提に基づく。

  • (前提3) 全てのゲームがユニークなわけではない。ゲーム間には、共通部分がある。共通部分は、類似したプレイシナリオおよびそのシナリオでのプレイヤーの不満を生成する。

そのため、あるゲームから得られたプレイシナリオ記述は、新規制作するゲームにおいて再利用できると考えられる。


まとめると、プレイシナリオによるゲーム制作手法では、プレイシナリオを明示的に記述・収集・カタログ化することで、ゲームデザイナーの想像力を支援することを意図している。想像力の支援は、以下の利点をもたらす可能性がある。

  • (a) デザインの手戻りのコスト削減: テストプレイヤーからのフィードバックによるデザインの手戻りコストを削減できる。
  • (b) クリエイティブな思考時間の増加: プレイシナリオ記述に書かれるのは、既に分かっているシナリオとそのシナリオでの不満点である。プレイシナリオ記述の利用は、このようなルーチン的なデザイン上の欠点を特定・修正することを意味する。ルーチン的作業を効率的に行えるようにすることで、ゲームのクリエイティブな側面の思考により多くの時間を費やすことができる。

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