ゲームデザインのモデリング:「ペルソナ3ポータブル」の新要素 その3

ゲームデザインモデリングしてみよう」シリーズの9回目。

なお、これまでのモデリング結果は「ゲームデザインのモデリング」というドキュメントにまとめ中。

前回の続きとして、今回もモデリング対象としてはPSPで発売予定のRPGである『ペルソナ3ポータブル』の新要素をやってみる。

ペルソナ3ポータブル - PSP

ペルソナ3ポータブル - PSP

モデリングの概要

以下の説明は、既に知っている方は読み飛ばしてもらって大丈夫。


具体的なモデリングに入る前に、どういうモデリングなのかが少し分かってきたのでまとめてみる。

  • 何を表現するためのモデルか?:このモデルは、ゲームシステム上の仕様を細かな決定要素からなる構造に分解して表現する。
    • 決定要素とは、たとえば「アビリティがある」「カウンター(というアビリティ)がある」「カウンターは5%の確率で発生する」といったもの。


  • 何のためのモデルか?:このモデルは、個々の決定要素をプレイヤーの不満の観点から検討・評価・再決定するために利用できる。
    • たとえばプレイヤーは「カウンターの発生率が低すぎて役に立たない」というような不満を持つかもしれない。これは「カウンターは5%の確率で発生する」という決定に対する不満である。したがって、この決定を変更する必要があるかもしれない。

モデリング

ペルソナ3ポータブル』は、アトラスからPSPで発売予定のRPGであり、PS2で発売された『ペルソナ3』のリメイク作品。リメイク&携帯機ということで、いくつかの新たな要素の追加や改良がおこなわれている。このエントリではその新要素を中心にモデリングしてみたい。

なお、詳細は、ファミ通の記事が参考になる。

さて、今作では、新要素に「ゲーム開始時に主人公の性別を選択できる」というのがある。前回まではこの新要素を中心にのモデリングを行ってきた。

ファミ通などの情報によると、主人公の性別により以下が変わることが判明している。

  • (1) 主人公の性別によりBGMが変わる。
  • (2) ステータス画面の背景や画面右上の日付表示部分。男性の場合は、青に、女性の場合はピンクに。
  • (3) 女性主人公の場合には、ベルベットルームの案内人の性別を選択できる
  • (4) 女性主人公の場合にだけ現れるコミュキャラクターが存在する。

前回のエントリでは、一つ目の項目をモデリングした。今回はこの一つ目の項目をもう少し詳しくモデリングしていこうと思う。

前回のモデリング結果はこの図になる。この図を拡張して続きを行おう。

その前に、前回の考察をおさらいしておこう。前回分かったのは、決定要素は、「オプション的(任意的)なもの」と「必須なもの」に区別できるだろう、ということだった。

オプション的な決定と必須な決定



たとえば、「主人公の性別によりBGMが変わる」という決定は、「性別ごとに主人公が存在する」という決定に対して、オプション的(任意的)である。つまり、「性別ごとに主人公が存在する」という決定があったとしても、それにより「主人公の性別によりBGMが変わる」という決定をしなければいけないわけではない。


一方で、たとえば「キャラクターのレベルが上がる」という決定を行ったなら「レベルの最大値は99である」あるいは「レベルは無限に上がる」というような決定を行わなければならない。これら「レベルの最大値は99である」あるいは「レベルは無限に上がる」は、「キャラクターのレベルが上がる」という決定に対して必須な決定である。

オプション的な決定と必須な決定をモデルから区別できると便利かもしれない。オプション的な決定には、「<<オプション>>」というような印を付けることにしよう。

この図ではとりあえず、「主人公の性別によりBGMが変わる」だけをオプション的であるとした。他の決定についてはどうだろう?
「BGMが存在する」なんかは理論的には、オプション的であるといえる。BGMが存在しないゲームは存在しうる。図を更新してみよう。

ついでに、「ペルソナ3ポータブル」という決定要素も追加した。全てのゲームは、このような全ての決定のルートとなるような決定要素を持つと考えてよいと思われる。

他の決定要素についてはどうか? オプション的だろうか? 少し判断が難しい。今回は深く考えないことにしよう。

続いて、「主人公の性別によりBGMが変わる」というのをもう少し考えてみよう。この決定要素だけでは、どんな場面の時のBGMが変わるのか、というは分からない。さらなる決定要素が必要である。とはいえ、詳細な仕様は分からないので、仮に、以下のような仕様があるとして考える。

  • 主人公の性別によりバトル曲が変わる。
  • 男性主人公の時のバトル曲は「XXX」である。
  • 女性主人公の時のバトル曲は「YYY」である。

これらをモデリングしてみる。

まずは「主人公の性別によりバトル曲が変わる」という決定だけを追加してみた。

悩んだのでは、この「主人公の性別によりバトル曲が変わる」という決定はオプショナルなのかどうかという点。オプショナルにも思える。たとえば、別にバトル曲が変わる必要はなく、フィールド曲でもあってもよい。とはいえ、何かは変わらなければならない。そう考えると、「主人公の性別によりバトル曲が変わる」は、この「何かは変わらなければならない」という何かに対応する。そのため、オプショナルでないとした。

次に、性別に対応するバトル曲に関する具体的な決定を行わなければならい。仮仕様をもとに「男性主人公の時のバトル曲は「XXX」である」と「女性主人公の時のバトル曲は「YYY」である」を追加した。追加するこれらの決定はオプショナルではない。

次に、バトル曲の要素を追加してみよう。「曲「XXX」が存在する」と「曲「YYY」が存在する」を追加した。

一見、問題はないように思えるけれど気になる点がある。「主人公の性別によりバトル曲が変わる」という決定は「バトル曲が存在している」ということを前提としている。また、「バトル曲が存在している」とう決定もまた、「バトルが存在する」という決定を前提としている。ゲームデザインのモデリング原則に従い、これら暗黙の前提要素を明確にしよう。

ゲームデザインモデリング原則
ある決定要素が他のどんな決定要素を前提としているのかを考える。


ここまでで一つ考察できることは、あまり面白くないけれど、ゲームデザインには「制約」というものが存在するということがある。たとえば、以下のような決定は不正である。

  • 「男性の主人公の時のバトル曲は「XXX」である」と「女性の主人公の時のバトル曲は「XXX」である」

つまり、性別によってバトル曲が変わるといっているのだから、同じであってはならない。別の表現をすればこうなる。

  • 制約 1:男性の主人公の時のバトル曲と女性の主人公の時のバトル曲は同じであってはならない

また、違う例では、以下がある。

  • 制約 2: バトル曲は2曲以上存在しなければならない

つまり、性別によってバトル曲が変わるといっているのだから、2曲以上存在しないと一つ目の制約を満たせない。

次に、制約と決定の関係を考えたい。これらの制約は「主人公の性別によりバトル曲が変わる」という決定により導入されたと見なせる。つまり、一般的には、決定には以下の二種類が存在するといえる。

  • 1つ以上の制約を導入するような決定
  • 制約を導入しないような決定

ここでの疑問には、以下があると思った。

少し難しい。今後考えていこう。


今回はこれぐらいで終わりにしたい。次のエントリではこの続きを行う予定である。