ゲームデザインのモデリング:「ペルソナ3ポータブル」の新要素

ゲームデザインモデリングしてみよう」シリーズの7回目。

なお、これまでのモデリング結果は「ゲームデザインのモデリング」というドキュメントにまとめ中。


今回のモデリング対象しては、PSPで発売予定のRPGである『ペルソナ3ポータブル』の新要素をやってみる。

ペルソナ3ポータブル - PSP

ペルソナ3ポータブル - PSP

モデリングの概要

以下の説明は、既に知っている方は読み飛ばしてもらって大丈夫。


具体的なモデリングに入る前に、どういうモデリングなのかが少し分かってきたのでまとめてみる。

  • 何を表現するためのモデルか?:このモデルは、ゲームシステム上の仕様を細かな決定要素からなる構造に分解して表現する。
    • 決定要素とは、たとえば「アビリティがある」「カウンター(というアビリティ)がある」「カウンターは5%の確率で発生する」といったもの。


  • 何のためのモデルか?:このモデルは、個々の決定要素をプレイヤーの不満の観点から検討・評価・再決定するために利用できる。
    • たとえばプレイヤーは「カウンターの発生率が低すぎて役に立たない」というような不満を持つかもしれない。これは「カウンターは5%の確率で発生する」という決定に対する不満である。したがって、この決定を変更する必要があるかもしれない。

モデリング

ペルソナ3ポータブル』は、アトラスからPSPで発売予定のRPGであり、PS2で発売された『ペルソナ3』のリメイク作品。リメイク&携帯機ということで、いくつかの新たな要素の追加や改良がおこなわれている。このエントリではその新要素を中心にモデリングしてみたい。

なお、詳細は、ファミ通の記事が参考になる。

ペルソナ3ポータブル - PSP

ペルソナ3ポータブル - PSP

新要素として、今作では、ゲーム開始時に主人公の性別を選択できるようになった。前作では、男性主人公だけであったが、今作では女性主人公が新たに追加された。まずは、この新要素モデリングしてみよう。意外と悩みどころは多い。悩みと失敗の過程を伝えていきたい。

とりあえず、そのままモデリングしてみた。「ゲーム開始時に主人公の性別を選択できる」という決定があり、その決定があれば、「男性の主人公が存在する」という決定と「女性の主人公が存在する」という決定が行えるという視点だ。

ゲームデザインのいくつかのモデリングをしてきて、モデルの適切さを確認するための方法の一つは、この決定が変わったらどうなるのか? という質問をしてみることがある。

ゲームデザインモデリングの原則(仮)
ある決定が変わったらどうなるかによりモデルの適切さを確認する。

たとえば、「ゲーム開始時に主人公の性別を選択できる」から「ゲーム開始時に主人公の性別を選択できない」になったらどうなるか? 男性の主人公も女性の主人公も存在しないことになる。結構違和感があるところである。

修正の視点としては、「ゲーム開始時に主人公の性別を選択できる」という決定を少し考え直してみるとよいかもしれない。この決定はどんな決定を前提としているのか?

  • ゲーム開始時が存在する
  • 性別ごとに主人公が存在する

前者は少し微妙だけど、後者は一つの決定要素とするほうが良い気がする。

ゲームデザインモデリングの原則(仮)
ある決定が他のどんな決定を前提としているのかを考える。


「性別ごとに主人公が存在する」という決定を導入し、この決定に「ゲーム開始時に主人公の性別を選択できる」という決定が依存するようにした。さらに、以下の図に示すように「主人公が存在する」という決定も追加した。

それでは、各決定を一つ一つ確認してみよう。

「主人公が存在する」から「主人公が存在しない」になったらどうなるか? 他の要素は全てなくなる。

「性別ごとに主人公が存在する」から「性別ごとに主人公が存在しない」に変わったとしたらどうか。この場合は、変更後の決定は要素として表す必要はないかもしれない。結果として、主人公の性別を選択することもできなくなるし、男性主人公も女性主人公も存在しないことになる。単に「主人公が存在する」が残る。

この場合は前作に近い決定として考えることができる。前作では、主人公が存在し、男性の主人公が存在した。ついでなのでモデリングしてみよう。

ここでは次のような疑問が出るかもしれない。「男性の主人公存在するのか?」それとも「男性の主人公だけが存在するのか?」。後者の方が正確で曖昧のない表現といえるだろう。

ただし、他の表現方法も考えられる。どういうものかというと「主人公が一人存在する」や「主人公は男性である」のようなより細かな決定要素による表現である。

では、次の疑問は、どちらのモデルが良いのか? である。後者の方が良いと思われる。というのも、細かな決定要素として表すことで、それぞれの決定の妥当性を一つ一つ考えられるからだ。たとえば、「主人公が一人存在する」という決定に対しては、ユーザはどんな不満や要望を持つだろうか? たとえば「主人公が一人しかいない」というような不満が考えられる。同様に、「主人公は男性である」という決定に対しても、そのまま「主人公が男性」というような不満や、「女性の主人公でも遊びたかった」という要望が想定できる。実際、psmk2で『ペルソナ3』のレビューを調査してみたら「女主人公を選べてほしかった」と「別に弊害もなさそうなので女性主人公もいたほうが良かったように思います。」という二件の要望があった。

ゲームデザインモデリングの原則(仮)
ある決定要素を、さらに細かな決定要素として分解できるか考える。

ここまででずいぶん長くなってしまったので今回はここで中断することにしよう。次回はこの続きをやっていきたい。

今回の成果

今回の成果としては、原則となれるような三つの以下を特定できたことにある。

ゲームデザインモデリングの原則(仮)
(1) ある決定が変わったらどうなるかによりモデルの適切さを確認する。

(2) ある決定が他のどんな決定を前提としているのかを考える。

(3) ある決定要素を、さらに細かな決定要素として分解できるか考える。