「1P企画書シート」から思ったこと

エレメンツ石川さんのこの記事に面白かったので、思ったことを書いてみたい。

僕は全然知らなかったのだけど、福岡ゲーム産業振興機構では「FUKUOKAゲームインターンシップ」というのを実施しているらしい。

2009年夏のインターンシップが終わり、上記の石川さんの記事は、このインターンシップでの一つの気づきを紹介してくれている。

「1P企画書シート」というのは、エレメンツでの(?)インターンシップで使われているものの一つ。この「1P企画書シート」の意図は、石川さんによれば次のようなもの。

インターン生が5〜10ページ程度の企画書を作る際に、アイデアからいきなり企画書を作ると、どうも自分自身で企画が整理できてないまま、不完全な企画書になる場合が多い。
そこで「1P企画書シート」を使って考えを整理し、必要な内容が満たされているかをチェックする。
本格的な企画書の前段階のシートとして作ったのです。

1P企画書と気持ちの動き(2009年夏のインターンシップ)

上記の記事では、この「1P企画書シート」にどんな記述項目を設定するかが、ゲームの楽しさを伝えられる企画書作成にどんなに影響を与えるのかが考察されている。


もともとの1P企画書では、次のような項目を入れていたらしい。

  • 「ユーザーが抱える課題」
  • 「課題に対する提案」

これら項目の導入意図は、石川さんによれば「誰に向かって企画を作っているのか、その相手に何をアピールしたいのか明確でない企画が多かったから」とのこと。

結果としては、意図は達成できたが、どうやら、同時に、弊害があることも判明してしまった。「ゲームの楽しさが伝わってこない」ということだ。

結果、たしかにインターン生はターゲットユーザーを意識するようにはなりました。
しかし、どうにも理屈っぽくなってしまう。
なんか「クライアントに提案するビジネス企画書」みたいになってしまうのです。
言ってしまうと、ゲームの楽しさが伝わってこない。

1P企画書と気持ちの動き(2009年夏のインターンシップ)

そこで、石川さんは、上記の問題点を解決すべくフォーマットor項目の見直しを実施した。考えた結果は、次の項目であった。

  • 「1.こんな人のこんな気持ちが」
  • 「2.こんなゲームをすることで」
  • 「3.こんな気持ちに変わった!」

「気持ち」を前面に出すことで、ゲームらしい表現が出てきやすいように工夫されたフォーマットである、とのこと。

さて、この「新・1P企画書シート」の効果はどうか? うまくいったらしい。

すると、インターン生の企画書も、ゲームの楽しさが変更前より前面に出るようになってきた!

1P企画書と気持ちの動き(2009年夏のインターンシップ)


なお、この「1P企画書シート」は、石川さんの記事から自由にダウンロードできる。

思ったこと

一つ思ったのは次のこと。

  • 企画者は、どんな視点から考えるのかにより、どんな表現を生み出せるのかに影響を受ける

ここで「どんな視点から」というのは、「どんな項目を設定するのか」だと思って欲しい。「どんな表現」は、「ゲームの楽しさが伝わる表現」だと思ってほしい。

さて、これを踏まえて以下の話を。

一般に、企画者がどのようなところから企画をスタートさせるのかは僕は分からない。厳密に区別できるかどうかは分からないけれど、思いつくつのは二つ。

  • 企画者視点(シーズ視点): 作りたいゲームのアイディアやイメージがあり、そのイメージを企画書に書く
  • ユーザ視点(ニーズ視点): ユーザが望んでるゲームは何かを考え、それを企画書に書く

企画者視点の場合、企画書のフォーマットの違いor視点の違いというのは、単に「ゲームの楽しさが伝わる表現」になるかならないかの度合いの違いだけかもしれない。

他方、ユーザ視点の場合はどうか。この場合はフォーマットの違いは、どんなゲームを作ることになるのか、ということ自体に影響を与えるかもしれない。1P企画書の変更前後を改めて比べてみよう。

  • 変更前の1P企画書:「ユーザーが抱える課題」「課題に対する提案」
  • 変更後の1P企画書:「1.こんな人のこんな気持ちが」「2.こんなゲームをすることで」「3.こんな気持ちに変わった!」

変更前の1P企画書は、企画者にとっての考える入力となる要素は「ユーザーが抱える課題」である。
一方で、変更後の1P企画書では、企画者は「こんな人のこんな気持ち」という入力を受けて考える。また、入力だけでなく、入力に対する出力要素orゴール要素である「こんな気持ちに変わった!」も同時に考える必要がある。変更後の1P企画書では、ゲームというものは、ユーザの現状の気持ちを、ある気持ちに変えるための仕組みとしての役割を持つとして位置づけられているといえるかもしれない。

さて、このように、ゲームというものは、ユーザの気持ちを変えるための仕組みであると考えると、個々の企画者がどれだけの「こんな人」やどれだけの「こんな気持ち」というのを想像できるのかが、どんなゲームを思いつけるのかに大きく影響すると言えるかもしれない。

ここで思ったのは、「こんな人」や「こんな気持ち」というのを企画者間で共有するというのはどうだろう? ということ*1。反論はあるかもしれない。誰にとって得になるのか。ユーザであるとしたい。以下で少し議論してみよう。

まず、ある「こんな人のこんな気持ち」を決めれば、一つ「変わった気持ち」が決まるのだろうか? それとも、ある「こんな人のこんな気持ち」が複数の企画者に与えられたなら、企画者によって異なる「変わった気持ち」がゴールとして設定されるのだろうか?

もっと分かりやすくするためにゲームの要素を入れてみよう。

図で示しているように、可能性としては3つ考えられる。

  • (1) 一つの入力に対して一つのゴールを満たす一つのゲームがある
  • (2) 一つの入力に対して一つのゴールを満たす複数のゲームがある
  • (3) 一つの入力に対する複数のゴールのうち一つを満たす複数のゲームがある

おそらく現実的には(3)であると考えられる。では、この場合、複数のゲームをある企画者が関わる一つのメーカーが開発できるだろうか? 開発ジャンルの得意・不得意などを考慮とすると、難しいかもしれない。とすると、

  • (ステップ1)「こんな人のこんな気持ち」という入力を(全部とは言わないが部分的に)共有し、
  • (ステップ2) そこからそれぞれの企画者が必要だと思う「こんな人のこんな気持ち」を選択、さらに必要であれば新たに追加し、
  • (ステップ3) 入力に対するゴールを設定し、
  • (ステップ4) そして、入力とゴールをつなぐ具体的なゲームを企画する、

というやり方もあるのではないか、と思った。結果として、入力が適切であれば、ユーザをより満足させられるようなゲームをより提供できるのではいか。

まとめ

このエントリでは、「1P企画書シート」の改良の話をもとに、以下の二つの疑問を投げかけた。

  • (1) 企画者は、楽しいゲーム面白いゲームを想像するために、自身にどのような質問を投げかけるのが効果的なのか?
  • (2) 質問の結果として得られた回答は、企画者間で共有すべきか?

*1:ペルソナ法を知っている方は、ペルソナの共有のようなものを僕がイメージしていると思ってもらってよい。